異動や退職が決まって、「何をどこまで引き継げばいいのか」と手が止まっていませんか。あるいは、引き継いだ翌週に「この件、前の人から聞いていない」と困った経験がある人も多いはずです。
引き継ぎの抜け漏れは、資料が雑だから起きるとは限りません。よくある原因は次の 3 つです。
- 年に数回しかない仕事が、一覧から漏れる
- 途中の仕事の「今どこまで進んでいるか」が伝わらない
- 手順は書いてあっても、「迷ったときにどう決めるか」が書かれていない
この記事では、これらを防ぐ引き継ぎのやり方を 5 つのステップで紹介します。そのまま使える引き継ぎ書のテンプレートと、渡す側・受ける側それぞれのチェックリストも載せています。異動・退職・産休や育休を控えた人と、後任になった人に向けて書いています。
引き継ぎが漏れる 3 つの理由
年に数回の仕事は、ふだん意識していない
毎日・毎週の仕事は、本人も周りもよく分かっています。漏れやすいのは、月末だけ、決算期だけ、年に 1 回だけの仕事です。「毎年 3 月に取引先へ年間の見積もりを出す」「夏前に空調の点検を手配する」といった仕事は、いざ書き出そうとしても思い出しにくいものです。
途中の仕事は、状況が本人の頭の中にしかない
終わった仕事は記録が残り、まだ始まっていない仕事は手順を伝えれば済みます。いちばん困るのはやりかけの仕事です。「先方の返事待ちで、来週もう一度連絡する予定だった」といった状況は、本人に聞かないと分かりません。
手順は書けても、判断の基準は書き忘れる
「請求書を作って送る」という手順は書けます。一方、「金額が 10 万円を超えたら課長に見せる」「この取引先は月末が休みなので前倒しで送る」のような迷ったときの決め方や例外は、本人にとっては当たり前なので書き忘れがちです。後任が困るのはたいていここです。
引き継ぎのやり方 5 ステップ
引き継ぎは、仕事を全部書き出し、1 件ずつ要点を書き、実際に後任にやってもらうところまでで一区切りです。日程は最終出社日から逆算して組みます。退職では有給休暇を消化するため、最終出社日が退職日より前になることが多いので注意してください。
| 時期 | ステップ | やること |
|---|---|---|
| 準備期間 | 1 | 仕事を頻度別に全部書き出し、上司と日程を決める |
| 準備期間 | 2 | 1 件ずつ「目的・手順・判断基準」を書く |
| 準備期間 | 3 | やりかけの仕事の状況を一覧にする |
| 引き継ぎ期間 | 4 | 見せる → 一緒にやる → 任せて見守る |
| 最終週まで | 5 | 関係者への紹介、名義やアカウントの切り替えを済ませる |
ステップ 1:仕事を頻度別に全部書き出す
まず、担当している仕事を毎日・毎週・毎月・年に数回・不定期に分けて書き出します。分けるだけで「年に数回」の欄が空いていることに気づけます。
年に数回の仕事は、記憶に頼らず記録から拾うのがコツです。
- 過去 1 年分の予定表を月ごとに見返す
- 送ったメールや提出した資料を月ごとにさかのぼる
- 定期的に届く請求書や案内(保守契約・更新手続きなど)を確かめる
書き出したら、それぞれに頻度と 1 回あたりのおおよその時間を書き添えます。後任が引き受ける量を、上司も含めて見積もれるようになります。この一覧をもとに、上司と「誰に・いつまでに・どの順で」引き継ぐかを決めておきます。
ステップ 2:1 件ずつ「目的・手順・判断基準」を書く
書き出した仕事 1 件ずつに、次の 3 つを書きます。
- 目的:何のための仕事か。目的が分かれば、後任が手順を見直せる
- 手順:使う道具、資料の置き場所、締め切り
- 判断基準と例外:迷ったときの決め方、過去に起きたトラブルと対処
全部を丁寧に書こうとすると終わりません。ミスすると影響が大きい仕事と、年に数回の仕事から書いてください。毎日の仕事は、一緒にやるうちに覚えられます。
ステップ 3:やりかけの仕事の状況を一覧にする
途中になっている仕事は、別の一覧にまとめます。1 件ごとに書くのは次の 4 つです。
| 仕事 | 今の状況 | 次にやること | 期限・相手 |
|---|---|---|---|
| 〇〇社の見積もり | 先方の返事待ち(10/15 に送付) | 返事がなければ電話する | 10/22・〇〇社 田中さん |
| 備品の入れ替え | 3 社から見積もりを取った | 部長に比較表を見せて決めてもらう | 11 月末までに発注・総務部長 |
最終出社日までに終わる仕事は、できるだけ自分で終わらせます。終わらない仕事は、区切りのよいところで止めて、次の一手を書いて渡すのが基本です。この一覧は状況が日々変わるので、最終日にもう一度更新してから渡します。
ステップ 4:見せる → 一緒にやる → 任せて見守る
資料を渡して説明するだけでは、引き継ぎは終わりません。実際にやってみて初めて、資料に書いていないことが出てくるからです。次の 3 段階で進めます。
- 見せる
前任者がいつも通りやり、後任は横で見ながらメモを取る - 一緒にやる
後任が手を動かし、前任者が横で補う - 任せて見守る
後任が 1 人でやり、困ったときだけ前任者に聞く
できれば、毎月の仕事は最低 1 回、後任が 1 人でやるところまで進めます。年に数回の仕事は時期が合わないことが多いので、前回の資料や記録を見ながら一緒に流れをたどっておきます。
後任が 1 人でやって詰まったところは、その場で引き継ぎ書に書き足します。こうすると、引き継ぎ書が実際の仕事に合ったものになっていきます。
ステップ 5:関係者に後任を紹介し、名義やアカウントを切り替える
取引先や社内の関係者には、メールで知らせるだけでなく、できれば一度一緒に会うか、打ち合わせに同席して紹介します。顔を合わせておくと、後任が連絡しやすくなります。社外に異動や退職を伝える時期と言い方は、会社の方針に合わせてください。
あわせて、次のものを切り替えます。
- アカウントと権限:自分個人のアカウントのパスワードは渡さず、後任には新しく権限を付けてもらいます。共有のアカウントは、引き継いだあとにパスワードを変えます。手続きは管理者や上司を通します
- 名義と宛先:業者に登録している担当者名、自動で届く通知やメーリングリストの宛先、承認の担当など
- 鍵や備品:合鍵、社用の携帯電話、カードなど
最後に、引き継ぎ後の問い合わせ先を決めます。異動なら「〇月末までは自分に聞いてよい」と期限を区切ります。退職なら、上司や詳しい同僚を問い合わせ先にしておきます。
そのまま使える引き継ぎ書のテンプレート
引き継ぎ書は、全体シート 1 枚と、仕事 1 件ごとのシートに分けると読みやすくなります。共有の文書やメモにコピーして使ってください。
全体シート(後任がまず読むもの)
■ 作成者(前任)/後任:
■ 作成日/最終出社日:
■ 引き継ぎの日程:〇/〇 見せる、〇/〇〜 一緒にやる、〇/〇〜 任せる
■ 仕事の一覧(頻度・1 回あたりの時間):
毎日:
毎週:
毎月:
年に数回:
不定期:
■ やりかけの仕事の一覧(今の状況・次にやること・期限・相手):
■ 引き継ぎ後の問い合わせ先と期限:
仕事 1 件ごとのシート
■ 仕事の名前:
■ 目的(何のための仕事か):
■ 頻度とタイミング:毎月 25 日まで など
■ 1 回あたりの時間:
■ 手順:
1.
2.
■ 使う道具・資料の置き場所:
■ 迷ったときの決め方・例外:
■ 過去のトラブルと対処:
■ 関係者(社内・社外)と連絡先:
引き継ぎ書は、紙やメールの添付ではなく、チームで開ける共有の場所に置きます。社内の共有フォルダや、クラウドの共有文書などです。後任がそのまま書き足していけば、次の引き継ぎのときにも使えます。ただし、顧客の個人情報や給与のような情報は引き継ぎ書に書き写さず、「どこに保管しているか」だけを書いて、見られる人を絞ってください。
手順書とやりかけの仕事を同じ場所で管理できる道具を使うと、後任が追いかけやすくなります。たとえば Meooow では、手順を書いたページと、担当者・期限を付けたやりかけの仕事を、同じ案件の中にまとめておけます。
渡す側のチェックリスト
印刷して、終わったものに印を付けながら使えます。
- 仕事を頻度別(毎日・毎週・毎月・年に数回・不定期)に書き出した
- 過去 1 年分の予定表とメールを見返し、年に数回の仕事を拾った
- 引き継ぎの日程を、最終出社日から逆算して上司と決めた
- ミスの影響が大きい仕事に、判断基準と例外を書いた
- やりかけの仕事に「今の状況」と「次にやること」を書き、最終日に更新した
- 毎月の仕事を、後任が 1 人で 1 回やった
- 取引先・社内の関係者に後任を紹介した
- アカウント・権限・名義・宛先・鍵を切り替えた
- 会社のデータを私物のパソコンや個人のメールに移していない
- 引き継ぎ後の問い合わせ先を決め、上司に完了を確認してもらった
受ける側のチェックリスト
後任のほうも、受け身で待っていると聞き漏れが出ます。次の点を自分から確かめてください。
- 「年に数回だけの仕事はありますか」と聞いた
- 「いちばん困ったこと・ミスしやすいことは何ですか」と聞いた
- 「この仕事は誰に聞けば分かりますか」と、前任者以外の相談先を聞いた
- 説明を聞くだけでなく、1 回は自分でやらせてもらった
- 詰まったところを引き継ぎ書に書き足した
- 前任者がいなくなったあとの問い合わせ先を確かめた
「分からないところはありますか」と聞かれても、何が分からないかはやってみるまで分かりません。だからこそ、引き継ぎ期間のうちに自分の手でやってみることがいちばんの確認になります。
よくある質問
引き継ぎにはどれくらいの期間が必要ですか?
仕事の量によって違うので、一律には決められません。目安にするなら、毎月の仕事を後任が 1 回、1 人でやれるだけの期間を、最終出社日から逆算して取ります。期間が短いときは、ミスの影響が大きい仕事とやりかけの仕事を優先し、毎日の仕事は資料に残して後任に任せます。
引き継ぎ書と業務マニュアルは何が違いますか?
引き継ぎ書は、特定の人から人へ渡すための資料で、やりかけの仕事や関係者のように、そのときの状況も含みます。業務マニュアルは、誰が担当しても同じようにできるための手順書で、担当が変わっても使い続けます。仕事 1 件ごとのシートを整えていけば、そのまま業務マニュアルの土台になります。
産休・育休の引き継ぎで気をつけることは?
休業中は連絡しない前提で、引き継ぎ書を書き切ってください。「分からなければ連絡して」に頼ると、休業中の人にも後任にも負担がかかります。また、復帰するときには逆向きの引き継ぎが要ります。後任には、休業中に変わったことや新しく始まった仕事を記録しておいてもらいましょう。
急な入院などで、本人が引き継げないときは?
本人が何も残せないことも多いので、上司や周りの人が、予定表・送ったメール・共有フォルダから状況を拾います。まず確かめるのは次の 3 つです。
- 期限が近いやりかけの仕事
- 資料やデータの置き場所
- 取引先など関係者の連絡先
こうしたときに慌てないためにも、ふだんから仕事の一覧と手順を共有の場所に置いておくことが、いちばんの備えになります。
後任が決まらないまま辞めることになったら?
上司に引き継ぎ書を渡し、渡した日と範囲を記録に残します。後任が決まったときに読めば分かるよう、口頭の補足に頼らず書いておきます。
まとめ
- 引き継ぎの漏れは「年に数回の仕事」「やりかけの仕事」「判断の基準」で起きやすい
- 仕事を頻度別に書き出し、年に数回の仕事は予定表やメールから拾う
- 日程は最終出社日から逆算し、「見せる → 一緒にやる → 任せて見守る」で進める
- 引き継ぎ書は共有の場所に置き、後任が書き足して次につなげる
ふだんからチームで仕事の一覧を共有していれば、引き継ぎの手間はぐっと減ります。仕事の一覧づくりから始めたい人は、チームのタスク管理の始め方も参考にしてください。